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京都地方裁判所 昭和48年(行ウ)12号 判決 1975年12月12日

原告

有本一三

右訴訟代理人

酒見哲郎

外一名

被告

京都市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

中山秀夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和四八年八月二五日付でなした別紙目録記載の建物(以下本件建物という。)の台帳価格に対する審査請求決定のうち、金二一二二万円を超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は本件建物の所有者であり、その固安資産税の納付義務者であるところ、訴外京都市長は昭和四八年度の本件建物の課税標準たる価格を六五一〇万〇三〇〇円と決定し、京都市南区役所備付の固定資産課税台張に登録したうえ、同台帳を同年三月一日から同月二〇日までの間、関係者の縦覧に供した。

原告は、右登録価格を不服として昭和四八年三月二六日付文書をもつて被告に対し、地方税法四三二条の規定に基づく審査請求をしたところ、同年八月二五日被告は台帳価格を四三一〇万五九〇〇円とする旨の審査決定をなし、その頃これを原告に通知した。

2  しかし、本件建物は、原告が昭和四六年八月、訴外竹内鉄工所、同村田市太郎に請負わせ、右両名に対して合計二一二二万円を支払つて完成したものである。

3  したがつて、本件建物の価額は二一二二万円にすぎず、被告の右審査決定のうち右金額を超える部分は誤りであるので、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は不知。

3  同3は争う。

三、抗弁

1  固定資産の価格とは適正な時価をいう(地方税法三四一条五号)ものであるところ、市町村長は、自治大臣が定め、告示した固定資産評価基準(同法三八八条一項)によつて右価格を決定しなければならない(同法四〇三条一項)。そして、右固定資産評価基準は建物の価格を決定する場合につき再建築価格方式による旨規定しているので、原告の主張する工事代金額は建物の価格を決定する際の参考資料に過ぎず、右工事代金をもつて建物の価格とすることはできない。

2  そこで、被告は原告の審査請求に対し、右固定資産評価基準に基づき、かつ原告が提出した資料を参考にして、以下のとおり、本件建物の価格を合計四三一〇万五九〇〇円と算出したものであるから、本件審査決定は適法である。

(一) 別紙目録(一)の建物について

(1) 建物の概要

右建物は鉄骨造の工場用建物で軒高8.3メートルであり、平家建としては高い建物であるが、屋根、外部仕上共波型スレートで、間仕切、内部仕上、天井仕上、建築設備もなく、簡単な構造のものである。

(2) 非木造家屋評点基準表の適用

右建物の基準表の適用区分は「工場、倉庫、市場用建物」であり、基準表にしたがつて計算した部分別評点数は次のとおりである。

(イ) 主体構造部(鉄骨)

主体構造部の標点数は、その資材の使用量が明確な場合は、その建物全体の使用量に応じた総評点数を求め、これを単位(一平方メートル)当りに換算するものである。

右建物の評点項目は、鉄骨造(鉄骨の使用量が明確なもの)で総評点数は一一万四〇〇〇点に鉄骨使用量40.61トンを乗じて算出されるが、古材が一部使用されているのでその使用部分の度合を考慮すると四〇一万八九一八点となる。これを床面積で割ると平均の標準評点数は三一八九点となり、さらに補正係数の0.95を乗ずると部分別評点数は三〇二九点となる。

(ロ) 床構造

床構造については全面コンクリートたたきであり、部分別評点数は標準評点数どおり一五五〇点である。

(ハ) 基礎

評点項目は根伐工事、鉄筋コンクリート基礎であり、標準評点数四六五〇点に補正係数0.80を乗ずると、部分別評点数は三七二〇点となる。

(ニ) 外部仕上

評点項目は石線セメント板(波型)であり、これは一般的には波型スレートといわれているものであるが、標準評点数一二五〇点に補正係数0.73を乗ずると、部分別評点数は九一二点となる。

(ホ) 床仕上

評点項目はコンクリート直仕上の金ゴテ仕上で標準評点数四〇〇点に補正係数0.90を乗ずると、部分別評点数は三六〇点となる。

(ヘ) 屋根仕上

評点項目は波型スレートの大波普通板(野地板なし)で標準評点数一五〇〇点に補正係数0.87を乗ずると部分別評点数は一三〇五点となる。

(ト) 建具

建具の標準評点数を「建具面積が明確なもの」による場合は、評点項目である各種建具ごとの一平方メートル当りの評点数に各建具面積を乗じたものの合計を床面積で割り算出することとされている。したがつて、建具の平均の標準評点数は次表により算出される。

さらに、平均の標準評点数に補正係数0.7を乗ずると部分別評点数は九九九点となる。

(チ) 仮設工事

足場、各種準備工事、保安工事、その他をいい、標準評点数一〇〇〇点に補正係数0.56を乗ずると部分別評点数は五六〇点となる。

(リ) その他工事

樋、庇等の工事をいい、標準評点数五〇〇点に補正係数0.5を乗ずると、部分別評点数は二五〇点となる。

以上により各部分別に求めた評点数の合計は一万二六〇〇点(一〇〇点未満切捨て)となり、これが右建物の単位当り(一平方メートルあたり)の評点数である。

(3) 価額の算出

右により算出した単位当り評点数に床面積(一二六〇平方メートル)、経年減点補正率(右建物は0.98)、評点一点当りの価額(非木造の場合は一円一〇銭)をそれぞれ乗じて算定すると一七一一万四三〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

(二) 別紙目録(二)の建物について

建物の概要は別紙目録(一)の建物と同じであり、したがつて、単位当り評点数は一万二六〇〇点となる。そして、右単位当り評点数に床面積(一八四八平方メートル)、経年減点補正率(0.98)、評点一点当りの価額(一円一〇銭)をそれぞれ乗じて算定すると二五一〇万一〇〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

(三) 別紙目録(三)の建物について

(1) 建物の概要

右建物は鉄骨造の車庫用建物(軒高二メートルの片流れ)で、屋根が波形スレート葺、床部分が土間の簡易な建物である。

(2) 非木造家屋評点基準表の適用

右建物についての評点基準表の適用区分は「工場、倉庫、市場用建物」であり、基準表にしたがつて計算した部分別評点数は次のとおりである。

(イ) 主体構造部

評点項目は鉄骨造(鉄骨の使用量明確なもの)で、その標準評点数は一一万四〇〇〇点に鉄骨使用量1.924トンを乗じ、床面積で除すると七一六点となり、これに補正係数0.95を乗ずると部分別評点数は六八〇点となる。

(ロ) 基礎

評点項目は簡単な独立基礎であり、施行量が特に少ないことを考慮し標準評点数を七五〇点とした。これに補正係数0.85を乗ずると部分別評点数は六三七点となる。

(ハ) 屋根仕上

評点項目は波型スレートの小波板(野地板なし)であり、標準評点数は一二五〇点であるが、これに補正係数0.81を乗ずると部分別評点数は一〇一二点となる。

(ニ) 仮設工事

標準評点数一〇〇〇点に補正係数0.4を乗ずると部分別評点数は四〇〇点となる。

以上により各部分別に求めた評点数の合計は二七〇〇点(一〇〇点未満切捨て)となり、これが右建物の単位当り(一平方メートル当り)の評点数である。

(3) 価額の算出

右により算出した単位当り評点数に床面積(三〇六平方メートル)、経年減点補正率(0.98)、評点一点当りの価額(一円一〇銭)をそれぞれ乗じて算定すると八九万〇六〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

四、抗弁に対する原告の認否及び主張

1  抗弁に対する認否

すべて否認する。

2  抗弁に対する原告の主張

固定資産評価基準が価格決定の唯一のものでないことは地方税法四〇二条、四一九条等から明らかである。とくに地方税法四一九条において、評価基準によつて行なわれていないと認める場合、道府県知事は修正を勧告すると規定されている(同条一項)が、この勧告を受けた市町村長は必ず修正しなければならないものではなく、修正する必要があると認める場合にのみ修正しなければならない(同条二項)のであつて、これは、評価基準が時価の決定につき絶体的なものでないことを示すものである。

したがつて、評価基準は基準年度を除く価格決定の便宜のために用いるべきであつて、新築の場合は建築費を基準とすべきであり、これが再建築価格方式に、より忠実であるといわなければならない。

第三  証拠<略>

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、本件建物の価格につき判断する。

まず、建物の価格決定方式につき検討するに、地方税法によれば、被告は自治大臣が定め、告示した固定資産評価基準(同法三八八条一項参照)により建物の価格を決定するように義務づけられており(同法四〇三条一項)、裁量の余地はない。

なるほど地方税法四一九条には、道府県知事が、市町村における固定資産の価格の決定が固定資産評価基準によつて行なわれていないと認めて、価格の修正を勧告しても(同条一項)、右勧告をうけた市町村長は、修正を必要と認める場合にのみ修正しなければならない(同条二項)と規定されており、市町村における固定資産の決定価格が、道府県知事の判断した相当価格と異る場合のあることが暗示されているけれども、それは具体的な算定価額に相違が生じた場合に市町村の判断を優先させることを意味するに過ぎず(同法四〇二条の趣旨も同様に解される)、市町村において固定資産評価基準によらない価格決定をなすことを許容するものとは到底解されない。

また、原告は、新築家屋の場合には、実際に要した建築費を基準にすべき旨主張するが、新築の場合にのみ異なる扱いをすべき合理的理由は見い出せず、この場合においても評価基準により算定すべきものと思料するが、その理由は次に述べるとおりである。

すなわち、固定資産税はいわゆる物税であつて、課税客体である固定資産そのものの価値に着目して課せられる財産課税であるから、担税力はそのもの自体の有する客観的価値に応じて決定されるべきであるところ、建物の固定資産税課税標準額についても、建物自体の有する客観的価値、つまり適正な時価(地方税法三四一条五号)によつて決定するのが相当である。右の見地からすれば、建物を新築するにつき要した費用は当該建物を建築する際の特殊事情に左右されやすく、必ずしも適正な時価と一致するものではないのに対し、評価客体と同一のものを再建築し、これに要した費用に各種増減価を施してその価格を決定する方法、すなわち再建築価格方式は適正な時価を算出する最も妥当な方法であるといわなければならない。

三次に、被告が固定資産評価基準によつて算出した本件建物の具体的な価格の適否につき検討する。

<証拠>を総合すれば、本件審査請求がなされた後である昭和四八年四月一二日に、京都市南区役所固定資産税課の職員三名が、右審査請求における訴外京都市長の答弁書を作成する資料を収集するため本件建物を実地調査したこと、その際、同職員らは原告及び同人の息子の立会の下で本件建物の内部を点検するとともに、本件建物に使用されている建築資材の種類及び数量を知るため原告に対して工事代金の請求書、領収書、建築確認書の提出を求めたこと、これに対して、原告は、右書類が存在しないかあるいは手元にないことを理由に提出しなかつたが、建築計画図面を提出したこと、同職員らの現場における調査中、原告の息子は同職員らに対し、本件建物の鉄骨のうち六割程度が古材である旨申告したこと、その後、同職員らは、原告から提出された右建築計画図面及び原告の息子がなした古材についての右申告に基づいて、訴外京都市長が原処分をなす際に作成した評点調査票のうち修正すべき個所があるか否かを検査したこと、その結果、本件建物の主体構造部の鉄骨使用量につき、原処分時には原告がこれに関する資料を提出しなかつたため、鉄骨使用量が判明せず、鉄骨の使用量が明確でない建物であることを前提として評価基準を適用していたものを、右建築計画図面によつて鉄骨使用量を知ることができ、また本件建物のうち別紙目録(一)、(二)記載の建物については古材を六割使用している旨の申告もあつたので、これらを前提として主体構造部に関する評価基準の修正を行なつたこと、さらに、別紙目録(一)、(二)記載の建物の建具についても、建具面積が原処分時は不明であつたため、これを前提に評価基準を適用していたが、右建築計画図面によつて建具面積が明確となり、建具に入つているガラスの種類も判明したので、これらを前提として建具に関する評価基準の修正を行なつたこと、同職員らは本件建物のその他の部分については、原処分の評価基準を修正する必用なしと判断したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、右認定事実及び前掲各証拠によれば、被告が抗弁2で主張するとおりの計算方法により、別紙目録(一)の建物については部分別評点数の合計が一万二六〇〇点(一〇〇点未満切捨て)になることが認められ、これに床面積等を乗じて右建物の価格を算定すると一七一一万四三〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となること、別紙目録(二)の建物については部分別評点数の合計が一万二六〇〇点、建物の価格が二五一〇万一〇〇〇円と算定されること、別紙目録(三)の建物については部分別評点数の合計が二七〇〇点、建物の価格が八九万〇六〇〇円と算定されることがそれぞれ認められる。

してみると、被告が本件建物の価格を四三一〇万五九〇〇円と評価しその旨の審査決定をなしたことは適法であるといわなければならない。

四結論

よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(上田次郎 孕石孟則 安原清蔵)

目録

京都市南区塔ノ森下河原町一番地の一家屋番号仮四番

(一) 鉄骨造スレート葺平家建工場

床面積 一二六〇平方メートル

(二) 鉄骨造スレート葺平家建工場

床面積 一八四八平方メートル

(三) 鉄骨造スレート葺平家建車庫

床面積 三〇六平方メートル

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